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趣味を楽しむ:幸福

幸福を定義するのは極めてむつかしい。
なぜならそれは人の感覚だからです。
だからこそ、哲学的、宗教的にいろいろ論じられています。数例を紹介します。
銀のスプーンを持っていれば必ず幸福かといえばそうとは限りません。
趣味を楽しむことや幸福は心で感じるものではないでしょうか。

いろいろの人の言う幸福

幸福についての考察や、その方法を論じた書物は、「幸福論」と呼ばれています。
幸福を倫理の最高目的と考え、行為の基準を幸福におく説を幸福主義といいます。
ここでは、哲学者や思想家や宗教家などによって幸福についてどのような考え方が提示されてきたのか数例を記してみることにします。

アリストテレス
アリストテレスは『ニコマコス倫理学』において、 幸福とはだれもが求める目標であって、それが究極目標であるといっています。
つまりもはやそれが何かほかのものの手段にはなりえない、という点にある、と述べました。
言うならば、幸福は、それ自体のために求められる最高善てあって自足的で永続的な状態である、と見なしています。
幸福が最高目標、永続的であるのに対して、実生活の具体的な活動の過程で得られる「快」は安定性も永続性も欠いているとして、幸福主義をとなえました。

エピクロス派
エピクロス派は「快楽を得ることが幸福であるとした」といわれます。これは快楽主義などと表現されます。
ただし、エピクロス自身は、現代人がつい思い描いてしまうような、単純に享楽を求めるような"快楽主義"ではない、と言っています。
エピクロス自身は、快を「感覚的な快」と、「精神的な快」に分けて考えていいました。
前者は生き物に共通の反応ではすが、人間あるいは賢者にとっての幸福というのは、精神的な快であるとし、アタラクシアである、としていました。
アタラクシアとは、静かな心の平安、あらゆる苦痛と混乱を免れた精神の安定した境地のことを言っています。

法華経
『法華経』の第二章にあたる「方便品」において、全ての人々の真の幸福と安楽のために法華経は説かれたのだ、とされています。
別の言い方をすると、一切衆生の成仏が、仏がこの世に出現した最大で究極の目的である、と説いているのです。
そして『法華経』の第十五章にあたる従地涌出品には、釈迦如来が説法をしていたときに大地が割れ、そこから無数の菩薩が涌き出てくる情景が描かれています。
これらの菩薩は、釈迦亡き後の末法の世において仏法を護持し、広めてゆく存在ですが、これは他でもない我々普通の人間のことをあらわしており、民衆ひとりひとりが立ち上がり、他の人々までも幸せにしてゆく情景がオペラさながらの手法で描かれているのです。

キリスト教
イエス・キリストによるキリスト教が普及したヨーロッパの中世においては、「本来の幸福は個々の人間の努力によってどうにかできるようなものではなく、神からの恵みによってのみ真の至福は可能になる」、と説かれています。

幸福についての近年の様々な見解

欲求の充足こそが幸福なのだと考えてしまう人にとっては、欲求が満たされればそれは以前の状態に比べて幸福ということにはなりますが、本当にその欲求が何であるのかを知っているかどうかはわかりません。
この欲求の正体が分からず、自分が何を求めているかが理解出来ずに焦燥感に駆られる人や、欲求を中心としてしまったことで、欲求が限りなく膨張しつづけ、それを満たしつづけることが出来ず苦しむ人も少なくない、と言われます。
肘枕で寝る事は貧しい事の例え語が端的に表している通り、やはり「楽しい」「幸福である」という状態は、その主観において主体的に見出す事であり、如何なる状況においても、みずからの「心のありかた」を意識的に選び取ることよって見出すことができるとされています。
要するに、自分自身が幸福だなあ、と感じることができれば、それが真の幸福だということです。

銀のスプーンと幸福

銀のスプーンが目の前にあるということだけで幸福だというわけではありません。
例えば明日の米も心配な生活をしており、家族も病気で寝ているし、自分もガンの宣告を受けてしまっている。
そんなとき、昔の友人が、古希の祝いにどうぞと言ってくれた銀のスプーン。
その銀のスプーンを見て、どれほど幸福感を抱けるでしょうか。

若い頃は本当に苦労したなあ。
やっと成功して財産も出来たし、家族も元気で孫たちも遊びに来てくれる。
もう、古希になるのだし、人生やるべきことはやり通したような気がする。
ひとセットだけど、一家のテーブルで使える銀のカトラリーも先日手に入れた。
このスプーンだ。銀のスプーンだ。
しげしげと眺めながらスープをいただく。
幸福感なんて取り立てて感じるわけではないが、きっと、これが幸福というものなのかなあ。と。


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